池澤夏樹の「キップをなくして」

 

池澤夏樹の「キップをなくして」

池澤夏樹の「キップをなくして」

 

池澤夏樹の「キップをなくして」を読みました。

以下の11の章から構成されている一冊。
・キップをなくす
・駅の仲間
・甲州焼肉弁当
・精算券とスイカ
・駅長に会う
・駅の子のはじまり
・真夜中の目白駅
・二回目の会議
・函館めぐり
・春立ての広い空
・最後に、上野駅で

著者の作品の中でも大好きな「南の島のティオ」「カイマナヒラの家」と同様に、素晴らしい一冊でした。

子供に向けて説明する「死」の概念が、大人でもとても勉強になりました。

 

以下、僕の中で「引っかかり」のあったコトバのメモを読んで興味がわいた人は、手に取って読んでくださいね。

 

 

「日本でいちばん高いところはどこか知ってる?」とその時、ユータはイタルに聞いた。
「え?富士山のてっぺんだろ」
「はずれ。東京駅だよ」
「どうして?」
「だって、東京駅に向かう列車が上りなんだもん。ぜんぶの汽車が上がってくるんだから、東京駅がいちばん高いところ」
どうもユータの言うことはまじめに考えない方がいいみたいだ。

 
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「それからか。死んだ者がどうなるか知っているかね?」
「知りません」とフタバコさんは言った。ぼくだって知らない、とイタルは思った。
「別の世界に行く。現世から預かってきたものを返して、他のたくさんの魂と一緒になってしばらく暮らし、互いに混じり合う。やがて自分は自分だという気持ちが薄くなって、ぜんたいの中に溶け込んで、長い歳月の後、別の生命となってまた生まれ変わる。死ぬ前の自分のことはやがて忘れる。そういうことらしい」

 
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「ああ、同じだよ。楽しいところらしい。天国はあるけれど地獄はない。地獄というものは人間が勝手に考えたものだ。死ぬことは誰にとっても終わりだし、安らぎだ。もしもこの世に思いが残らなければね」
「残ったらどうなるの?」とミンちゃんは重ねて聞く。
「しばらくこちら側にいることになる。私がそうだったように」
「ずっと残っているの、何年も?」
「そうすることもできる。こちら側に残ることは禁じられていない。だから、死んでも見えない存在として暫時この世に残る者もいる。ただ、やがては納得して、旅立ってゆく。私はまだその納得に至れないだけだよ」

 
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「人の心はね、小さな心の集まりからできているの。たくさんたくさんの小さな心が集まって、一人の人の心を作っている。だから人が何か決める時は、その小さな心が会議を開いて相談したり議論したりして決める」
そうだったのかとイタルは思った。そんな気がしたよ。
「みんなも何か決める時に、気持ちが二つに分かれて困ることがあるでしょう。そういう時は会議が二派に分かれて議論しているのよ」

 
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でも、いなくなってみると、とても寂しい。何か見たり聞いたりしたことを、ああこれはミンちゃんに話そうと思っても、その思いには行く先がない。これが誰かがいなくなるということだ。旅立つとか、別れるとか、死ぬということだ。

 

 

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*企画は身体性。良質な企画は世の中を変える。
*良きインプットが良きアウトプットを作る。

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