欲があるから、いい広告は死ぬ|Proof over Promise

今朝7時、note で「プルーフ・ブランディング(Proof over Promise.)」連載の第7本を公開しました。

今回取り上げたのは、松下幸之助と稲盛和夫の「動機論」です。


経営の本を開くと、たいてい「私欲を捨てよ」「世のため、人のために」と書いてある。

立派です。でも正直、ちょっと身構える。稼ぎたい。認められたい。負けると悔しい。

その私欲をぜんぶ捨てたら、たぶん私は動けなくなる。

EPISODE 7 動機が、すべて

ところが稲盛和夫は、こう言っている。

「利己的な欲望は、事業を発展させていく上で強力なエンジンの働きをします」

私欲を否定していない。むしろ「エンジン」と呼んで肯定している。そのうえで稲盛は、その欲を利己にとどめず、利他へ高めよと説いた。


1965年、関西の経営者を集めた講演会で、松下幸之助が「ダム経営」を説いた。

ある参加者が問うた。「どうすればそのダムが作れるのですか」

松下は答えた。「ダムをつくろうと、まず思わんといかんなあ」

会場は失笑した。だが聴衆のなかにいた若き稲盛だけが、雷に打たれた。彼は黙って聴いていた一人だった。それでもその答えだけが、強く思うことからすべては始まる、と体を貫いた。

稲盛は後年、この日を自分の経営の原点として何度も語っている。


私なりに、二人の言葉をこう束ねている。

私欲は、エンジン。私心は、ハンドル。

欲は燃やしていい。ただ、最後の判断のハンドルだけは私心に握らせるな。

2010年、78歳の稲盛は JAL再建を無報酬で引き受けた。エンジン(やり遂げる闘志)は最後まで燃やした。ハンドル(判断の中心)には私心を置かなかった。2年8ヶ月で JAL は再上場した。


これは経営の話だけではない。広告や表現づくりの現場でこそ、起きる。

2024年、Appleが iPad Pro の広告を出した。巨大な油圧プレスが、ギターも、ピアノも、絵の具も、カメラも、彫像も──創作の道具を次々に押し潰していく。最後に薄い iPad Pro だけが残る。

「薄さと、すごさを衝撃的に見せたい」── そのエンジンは確かに回っていた。だが、最後のハンドルを「インパクト」という私心に握らせた瞬間、それがクリエイターに何を言っているのかを見る目が曇った。

あのAppleですら、謝罪した。広告は、一日で死んだ。

逆の話もある。アウトドアブランドのパタゴニアは、一年でいちばん売れる日に「このジャケットを買わないで」と言った。売りたい欲(エンジン)を消したわけじゃない。ただ、最後のハンドルだけを「世のため」に切った。売上は落ちず、信頼が残った。

約束(Promise)は言葉でいくらでも盛れる。けれど証(あかし)は、その一回のハンドルさばきの後ろにしか残らない。

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https://note.com/aloha_nagasawa/n/nfb22dfab005c


来週も、月曜朝7時。プルーフ・ブランディング ── 約束より、証(あかし)を。

▼ Proof over Promise. マガジントップ
https://note.com/aloha_nagasawa/m/m0b1638139e48

▼ 前回の記事:やり続けた人だけが、ブランドを残せる理由。

HIROKI NAGASAWA

海の近くでクリエイティブに生きる

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