本日、連載「超翻訳 ── 伝えたいを、伝わるカタチに。」の第25本を note で公開しました。
名前の案は、つけた自分たちの好みより、相手が覚えて口にできるかどうかで選ぶ。ソニーもホテルの名前も、そう決まった。

社内で決めた名前を お客さんが覚えていない
新しい商品やお店の名前は、社内で何度も話し合って決めた。ところが、お客さんにはなかなか名前で呼んでもらえない。覚えてもらえていないかも?
こういうことって、ないですか。
アメリカの人は 「東京通信工業」と言えなかった
1955年、のちのソニーである東京通信工業は、すべての製品に「SONY」のマークを入れることを決めた。
きっかけは、海外に渡る社員が増えるにつれて、ある話が出るようになったことだ。「東京通信工業」も、略した「東通工」も、アメリカの人たちには発音できない。ソニーが公開している社史には、こう書かれている。
「発音できないような名前で、物を持って行っても商売にならない」
新しい名前の条件も、社史に残っている。
「覚えてもらいにくいのも困るし、言いづらいのもだめだ。なるべく簡単な名前で、どこの国の言葉でも大体同じように読めて、発音できるということが大事な要素になる」
頭文字をとった「TKK」も考えたが、東京急行電鉄と紛らわしい。創業者の井深大も、アメリカに行くと「イビューカ」と呼ばれていた。いちばん苦心したのは、発音だったという。
そうして選ばれたのが、「SONY」だった。
東京通信工業が名前を選ぶときに見ていたのは、外国の人が言えるかどうかだった。
出典:ソニーグループ「Sony History 第6章 トランジスタに“石”を使う<トランジスタラジオ> 第2話 “東通工”から“SONY”のマークへ」
「STAY」は消えて 「いこい」が残った
私にも、外国から来るお客さんのために名前を考えた仕事がある。
以前、東京にできる、インバウンド向けの小さなホテルのネーミングを手伝った。コロナ禍のさなかのことだ。
聞いていたのは、「小さなCOZYなインバウンド向けホテル」というコンセプトだった。それを体現する名前を50案ほど出した。そこから、クライアントが気になった言葉をさらに転がしていった。
実は、転がす前の原型に、私がちょっと可愛くて気に入っていた案がある。「いこい STAY」だ。
「いこい」は、憩い。くつろぎの空間のことだ。そこに、泊まることを表す英語の「STAY」を合わせて、和と洋の言葉で韻を踏んだ。クライアントにも、気に入ってもらえた。
それでも最後は、インバウンドのお客さんのことを思うと、やはり一般的な「HOTEL」にしたい、ということになった。「STAY」は「HOTEL」に置き換わった。そのあと、これでは少しインパクトが薄いということで、所在地の「TOKYO」を加えた。
こうして、名前は「IKOI HOTEL TOKYO」に決まった。コロナで一時はどうなるかと思ったが、ホテルはちゃんと建って、無事に開業した。
泊まるお客さんは外国人がメインで、日本に憧れたり、日本のことを知りたいと思ったりして来る人たちだった。だから「東京」という地名を入れ、シンプルで「いこい」と発音できそうな、覚えやすそうな名前が選ばれた。
ホテルの名前は、いかに覚えてもらい、知り合いや外国人の友達にレコメンドしてもらうかがポイントになる。だから今回は、クライアントと一緒に、名前に込めたい思いより、泊まるお客さんが受け取る印象を大事にした。それも、日本の文脈ではなく、外国の文脈で受け取られる印象だ。
一見、とても一般的な名前に見えるかもしれない。
残ったのは、私が気に入っていた響きより、外国から来るお客さんが口にしやすい名前だった。
事例:ホテルのネーミング開発事例|「IKOI HOTEL TOKYO」ができるまで(50案からの絞り込み)
込めたい思いより 相手が受け取る印象で選ぶ
東京通信工業の「SONY」も、「IKOI HOTEL TOKYO」も、選ぶときに見ていたのは、つけた自分たちの好みより、相手が覚えて口にできるかどうかだった。
名前の案をいくつも並べると、出した人は、どうしても自分が気に入った案に目がいく。私もそうだった。
明日から試してみる
この考えを取り入れて、明日から実践するとするなら、まず、お客さんになったつもりで、手元にある名前の案を声に出して読んでみてほしい。一度聞いただけで言えるか。覚えて、誰かに伝えられるか。
次に、その名前で検索してみる。お客さんがその名前で探したときに、ちゃんとたどり着けるか。
気に入っている案が、そのどちらかで引っかかるなら、選び直すことも一つの手かもしれない。
名前は、相手が覚えて、誰かに伝えてくれたときに広がっていく。
よくある質問
名前の案を選ぶときは 何を見ればよいですか?
つけた自分たちの好みより、相手が覚えて口にできるかどうかを見ます。名前の案をいくつも並べると、出した人は、どうしても自分が気に入った案に目がいくためです。ソニーの「SONY」も、ホテルの「IKOI HOTEL TOKYO」も、そうして選ばれました。
東京通信工業は なぜ製品に「SONY」と入れることにしたのですか?
海外に渡る社員が増えるにつれて、「東京通信工業」も、略した「東通工」も、アメリカの人たちには発音できないという話が出たためです。1955年、のちのソニーである東京通信工業は、すべての製品に「SONY」のマークを入れることを決めました。ソニーの社史には、新しい名前の条件として「覚えてもらいにくいのも困るし、言いづらいのもだめだ」とあります。
頭文字の「TKK」は なぜ選ばれなかったのですか?
頭文字をとった「TKK」も考えられましたが、東京急行電鉄と紛らわしかったためです。
「IKOI HOTEL TOKYO」という名前は どのように決まったのですか?
「小さなCOZYなインバウンド向けホテル」というコンセプトから、名前を50案ほど出し、クライアントが気になった言葉をさらに転がしていきました。原型は、和と洋で韻を踏んだ「いこい STAY」です。インバウンドのお客さんのことを思い、「STAY」は一般的な「HOTEL」に置き換わりました。そのあと、少しインパクトが薄いということで所在地の「TOKYO」を加え、「IKOI HOTEL TOKYO」に決まりました。
ホテルの名前では なぜ込めたい思いより お客さんが受け取る印象を大事にしたのですか?
ホテルの名前は、いかに覚えてもらい、知り合いや外国人の友達にレコメンドしてもらうかがポイントになるためです。クライアントと一緒に、名前に込めたい思いより、泊まるお客さんが受け取る印象を大事にしました。それも、外国から来るお客さんの文脈で受け取られる印象です。
手元の名前の案を 明日から見直すにはどうすればよいですか?
まず、お客さんになったつもりで、名前の案を声に出して読んでみます。一度聞いただけで言えるか、覚えて誰かに伝えられるかを確かめます。次に、その名前で検索して、お客さんが探したときにたどり着けるかを見ます。気に入っている案がそのどちらかで引っかかるなら、選び直すことも一つの手です。
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