新しいアイデアは 古い事例でしか伝わらない|超翻訳 第24本

本日、連載「超翻訳 ── 伝えたいを、伝わるカタチに。」の第24本を note で公開しました。

新しいことを伝えるときは、新しさを訴えるより、相手がもう知っている事例にたとえた方が通じやすい。

ハンガーに小さな家の模型がずらりと掛かったショールームで、鏡の前で家の模型を体にあてて笑顔を見せる女性のイラスト(超翻訳)

正確に説明しているのに 相手の反応が薄い

自社の新しい商品について、丁寧に説明しているのに、相手の反応がいまひとつ薄い。理解されてないかも?

こういうことって、ないですか。


エジソンは電球を ガス灯と同じ明るさにした

1878年、白熱電球の研究を始めたエジソンは、ノートにこう書いている。

「ガス灯の明かりを電気に置き換えるために、ガス灯の明かりがしていることは、すべてそのまま真似る」

ノートには、こうもある。

「大きな光でも、まぶしい光でもない。ガス灯の明かりのように穏やかな、小さな光を」

エジソンの電球の光は、ガス灯の明かりより安定していて、澄んでいた。試作の段階では、ガス灯2〜3本分の明るさも出ていた。
それでもエジソンは、あえて、売り出す電球をガス灯と同じ明るさにした。

電線も、ガス管と同じように地面に埋めた。むき出しの銅線は地中で電気が漏れて、回路ごと切れることもあった(にもかかわらずだ)。

部屋が電気で照らされていると気づく人は、ほとんどいないだろう。当時の新聞は、そう書いている。

エジソンは、あえて、人々がよく知っているガス灯の姿で、新しい電気の明かりを世に出した。

出典:Andrew B. Hargadon & Yellowlees Douglas「When Innovations Meet Institutions: Edison and the Design of the Electric Light」『Administrative Science Quarterly』46巻3号(2001年)(全文PDF)


家は着られない それでも「試着」と呼んだ

私も、住宅の仕事で、これと同じような伝え方をしたことがある。

以前、大和ハウス工業から、ショールームの刷新の依頼を受けた。依頼のときにうかがったのは、「今までにない、体感できる注文住宅のショールームにしていきたい」という思いだった。

話を聞きはじめて2か月目に入ったころ、ご担当者が何気なく口にした言葉がある。

「服は試着できるし、車も試乗できるけど、注文住宅は建てる前に試せないですからね。失敗のないようにしてあげたいのです。」

毎日お客さんと向き合っている人には、当たり前の言葉だったのかもしれない。ただ、その一言を聞いたとき、ちょっとした気づきがあった。そこから、これを深掘りする方向で調整が進んだ。

コンセプトを言葉にするにあたっては、「試住」という言葉も幾度となく検討した。が、しかし、やはり、新しい概念を紹介する場合は、いますでに定着している事例や言い回しに寄せた方が良い。ここで言うと、家を手軽に、洋服のように試着できる施設、という意味合いも込めて、そのまま「試着」という言葉を使うことにした。

結果、コンセプトは、「注文住宅の「試着」ができる、いままでなかったショールーム」となった。名前は、家を試着する=トライする場所として「TRY家Lab(トライエ・ラボ)」にした。ロゴも、家の試着をわかりやすく伝えるために、色違いの家がハンガーにぶら下がっているイメージを採用した。

その後、TRY家Labは無事、2014年4月に東京・飯田橋の本社の敷地に開業した。翌週、東洋経済の記者が書いた記事は、見出しに「家を試着する」という言葉を使い、こう書き出している。

「衣服の『試着』や自動車の『試乗』と同じように、一生のうちで一番大きな買い物である注文住宅でも、建てたいと思う家を事前に試してみることができないか」

出典:水落隆博「“家を試着する”という大和ハウスの試み」東洋経済オンライン(2014年5月2日)/大和ハウス工業ニュースリリース「戸建住宅体感施設「TRY家Lab(トライエ・ラボ)」オープン」(2014年4月22日)

家は着られない。それでも「試着」は伝わった。


新しさを訴えるより 既存のものにたとえる

今思えば、「試着」という言葉を選んだのは、最初に紹介したエジソンの事例に近いと言える。
新しいことを誰かに伝えようとするときは、その新しさを訴えるより、既存の事例を持ってきて、たとえた方が、伝える側にとっても、受け取る側にとっても、意思疎通は容易となる。

これから新しいことや面白いことをいろいろと企てている人にとっては、この前提は極めて大事なことだ。特に、自分の企画が面白いと感じるときほど、既存のものでたとえたくないというのが心情だろうから、気をつけたいポイントである。(私も幾度となく失敗してきたのでよくわかる)

明日から試してみる

この考えを取り入れて、明日から実践するとするなら、まず、自社の新しい商品の説明から、いちばん正確だと思っている言葉や、自分たちで考えた新しい呼び名を1つ選んでみてほしい。

次に、それがお客さんのふだんの暮らしでは、何に近いかを考える。服の試着や車の試乗のように、もう定着している言い回しがないか探してみよう。そっちの方がしっくりくるなら、その言葉に置き換えることも一つの手かもしれない。

正確さや新しさを少し手放した言葉が、相手に届く。


よくある質問

新しいアイデアは なぜ古い事例にたとえると伝わるのですか?

新しいことを誰かに伝えようとするときは、その新しさを訴えるより、既存の事例を持ってきてたとえた方が、伝える側にとっても受け取る側にとっても、意思疎通が容易になるためです。エジソンは電球をガス灯と同じ明るさで売り出し、大和ハウス工業の「TRY家Lab」は注文住宅の「試着」というコンセプトで開業しました。

エジソンは電球をどのように世に出したのですか?

1878年に白熱電球の研究を始めたエジソンは、ノートにガス灯がしていることはすべてそのまま真似る、と書いています。試作の電球はガス灯2〜3本分の明るさが出ていましたが、売り出した電球はガス灯と同じ明るさでした。電線もガス管と同じように地面に埋めています。

「TRY家Lab(トライエ・ラボ)」とはどんな施設ですか?

大和ハウス工業が2014年4月に東京・飯田橋の本社敷地内に開業した、戸建住宅体感施設です。「注文住宅の『試着』ができる」ことをコンセプトにしています。アロハ・ブランディングは、コンセプト開発、ネーミング、ロゴ開発などを担当しました。

コンセプトの言葉になぜ「試着」を選んだのですか?

「試住」という言葉も幾度となく検討しましたが、新しい概念を紹介する場合は、いますでに定着している事例や言い回しに寄せた方が良いと考えました。家を手軽に、洋服のように試着できる施設という意味合いも込めて、「試着」を使うことにしました。

家は着られないのに「試着」という言葉は伝わったのですか?

開業の翌週、東洋経済オンラインの記事は見出しに「家を試着する」を使い、「衣服の『試着』や自動車の『試乗』と同じように、一生のうちで一番大きな買い物である注文住宅でも、建てたいと思う家を事前に試してみることができないか」と書き出しています。

自社の新しい商品の説明を明日から見直すにはどうすればよいですか?

まず、いちばん正確だと思っている言葉や、自分たちで考えた新しい呼び名を1つ選びます。次に、それがお客さんのふだんの暮らしでは何に近いかを考え、服の試着や車の試乗のように、もう定着している言い回しがないか探します。しっくりくるなら、その言葉に置き換えてみてください。


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連載「超翻訳 ── 伝えたいを、伝わるカタチに。」/毎週月曜、朝7時更新
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