桜木紫乃の「ホテルローヤル」を読みました。
第149回 直木賞受賞作品。
「ホテルローヤル」によって、つながる、7つのストーリーからなるオムニバス形式の作品。
「シャッターチャンス」
「本日開店」
「えっち屋」
「バブルバス」
「せんせぇ」
「星を見ていた」
「ギフト」
全体を通じて、淡々と生きるキャラクターたちが印象的な一冊でした。
以下、僕の中で「引っかかり」のあったコトバのメモを読んで興味がわいた人は、手に取って読んでくださいね。
「山のほうにあった『ホテルローヤルって知ってるか』
「ええ、近くにお墓があるところでしたね」
青山はそのホテルがいまはもう廃墟になっていると言った。青山の体から漂ってくる老人のにおいが、廃墟という言葉に妙な現実味を与えていた。
「このあいだ、あそこの大将が死んでしまってよ」
青山の、わずかに芯を取り戻しつつあったものが力を失った。幹子は青山を元気づけようと、下穿きの内側へ指先を滑り込ませる。幹子の手に、間の抜けた欲望の残骸が触れる。
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目覚めたときには男も金も、部屋からなくなっていた。男に騙されたことよりも、財布に一泊分の部屋代とタクシー代が残っていたことに動揺した。幹子はアパートまでたどり着けるぎりぎりのお金が財布に残っているのを見て、自分が十人並みかそれ以上の容姿を持っていればこの金もなかったろうと思った。そして、そんな容姿があったなら、騙されることもなかったろうにと自分を哀れんだ。
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いざ出てゆくことに決めてしまうと、もうここは雅代の居場所ではなかった。父も母も雅代自身も、ホテルを経営していたというより「ホテルローヤル」という建物に使われ続けていたのだと気づく。
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今日は旅立ち。今日から自由。今日でお別れ。今日が始まり。
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電気屋時代の借金を支払うために売った土地と家は更地へと変わり、今は月極駐車場になっている。帰る場所もなく、死なない程度に首を絞められながらの生活になるとは、イマダ電気に就職が決まった十年前は考えもしなかった。
「これで明日から売掛金の未回収や、増え続ける借金が一度にすべてなくなる」という喜びで、家を失う寂しさは微塵も浮かんでこなかった。
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あっちへふらふらこっちへふらふら、まりあの話は飽きるほどの寄り道をしながらだらだらと続いた。話が結論にさしかかったのは、十七時五十分。あと数分で函館に着こうかというところだった。
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みんな、ここから生まれたりここで死んだりしている。体の内側へ続く暗い道は、一本しかないのに、不思議なことだった。
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明け方、冷え冷えとした茶の間で目覚めた。酔いも醒めていた。昨日までここにいたはずの家族がいなかった。酒が見せた願望や後ろめたさや虚勢も、なくなっていた。テレビが早朝の番組を流し始めた。仏像めぐりの旅らしい。くすんだ色の、古い釈迦如来像が大写しになった。起き上がる。あぐらをかいたまま、画面に向かっていつの間にか両手を合わせていた。
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*企画は身体性。良質な企画は世の中を変える。
*良きインプットが良きアウトプットを作る。
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