Cocktail Short Stories
前夜祭のシンガポールスリング
今夜が母から受ける花嫁修業の最終日。
卒業課題は、私が子供の頃から大好きだった母の特性レシピ。
料理が出来上がるにつれ、母の口数が減っていく。
「しんみりするのは明日の式までとっておいてよ」
口に出して言おうとしてやめた。
その代わり母にカクテルの作り方を教えてあげる。
和樹さんがプロポーズしてくれた時にはじめて飲んだカクテル。
それ以来、私たちのお祝いの時には決まってこのカクテルが登場するようになった。
お酒があまり強くない母のために、薄めに作ってあげる。
「あら。初めて飲んだけど、これ、おいしいわね」
味にうるさい母も気に入ってくれたみたい。
さっきまでしんみりした空気が一気に晴れに変わる。
感情の変化がとっても早く、そして分かりやすいお母さん。
クールじゃないな、と昔は思っていたけれど、そんな表情豊かな女性に私もなりたいと思うようになったのはいつ頃からだろう。
「ただいま〜」
普段よりだいぶ早い帰宅の父。
顔を赤くした私たちを見て
「なんだか楽しそうだな。今日は前夜祭か?」
と、父。
心の中で両親に頭を下げる。
「今日までありがとう。明日からも、宜しくお願いします」
(C) Hiroki Nagasawa all Rights Reserved
コメント