Book LOG | 笹生陽子の「楽園のつくりかた」

 

笹生陽子の「楽園のつくりかた」

笹生陽子の「楽園のつくりかた」

 

笹生陽子の「楽園のつくりかた」を読みました。

図書館で手にした一冊。

いきなり読者を大どんでん返しに落とし込むその手法は勉強になりました。

 

以下、僕の中で「引っかかり」のあったコトバのメモを読んで興味がわいた人は、手に取って読んでくださいね。

 

 

おかあさん、知ってる?ユートピアって、どこにもない場所のことなんだって。トマス=モアとかいうおっさんが十六世紀のはじめに書いた小説の題名に、この言葉を使ったらしいんだ。夢の楽園はあくまでも人の想像上の産物で、現実界には存在しない。どこにもないから楽園なわけ。

 
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この白いのが根っこだよ。まだまだ細くてたよりないけど、根の役目はしっかりはたしてくれる。おまえに見せてやろうと思って、さっきためしに一本ぬいて、土をかぶせておいたんだ。ほかの小枝も、うまいぐあいに水が上がっているようだし、このぶんでいくと七割がたは成功しそうないきおいだ。

 
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受話器をにぎったおかあさんの手がぶるぶるふるえていたことも。次の日tの朝一番の飛行機でシンガポールに行って、霊安室に寝かされているおとうさんを見たことも。十二月のシンガポールは日本の夏より暑かった。遺体はただちに荼毘ににふされて、骨壺の中におさまった。おかあさんとぼくはおとうさんの遺骨を持って帰国した。お葬式には、黒い服をきたおおぜいの人があつまった。おじいちゃんは親戚の人につきそわれながら焼香をした。まるで自分がしんだみたいに、魂のぬけた表情で。

 
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おとうさんの死を無視するために、ぼくはおとうさん宛のメールを書いた。シンガポールの会社でおとうさんが使っていたアドレスはとっくにい抹消されていたので、送るあてのない文面はディスクの中に書きこんだ。でもそれじゃあ、パソコン日記を付けているのと変わらない。そこで考えついたのが、リターン・メールの代筆だ。おとうさんからもらったメールは、ファイルに保存されている。その文書を適当に切ったりはったりしたものに、つなぎの部分を書きたせば、なんとか形をととのえられる。

 
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なるほど、そういうことだったのか、と話を聞いてぼくは思った。松島とおるとおとうさん。おとうさんとぼく、星野優と松島とおる。おとうさんの過去とぼくのいま。それが全部、目には見えない力で結びついている。人間界のネットワークは想像以上に強力だ。

 

 

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*企画は身体性。良質な企画は世の中を変える。
*良きインプットが良きアウトプットを作る。

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