池澤夏樹の「クジラが見る夢 」を読む。
池澤夏樹の「カイマナヒラの家」は、僕の中のバイブルの一つ。本「クジラが見る夢 」は、ジャック・マイヨールと過ごした日々を綴ったエッセーなのだけど、同じ空気感が伝わってくる。水中写真は高砂淳二さんが撮影。質感がとてもハイセンスな一冊に仕上がっている。
心に引っかかったフレーズは以下の通り。
・ドイツ軍はマルセイユ湾の真ん中で海にダイナマイトを放り込むという乱暴な方法で魚をとった。ジャックと兄はドイツ兵に命じられて、浮いてきた魚を拾い集める仕事をし、少しばかりの魚を家に持って帰った。しかし、ドイツ兵は何も知らなかったが、死んだ魚の半分は実は海の底に沈んでいる。ジャックはこっそり後から行って、潜ってその魚を集め、市場に持っていって売った。これで彼は家の経済に寄与すると同時に、潜水の能力を高めることができた。
・彼の(素潜りの)最終的な記録は1983年の105メートル。この時ジャック・マイヨールは56歳だった。
・船体が波を立てる音に好き嫌いがあると言う説があるんだ。同じエンジンを搭載していても、イルカがよく来る船とそうでないのとがある。違いといったら船体だけだから、その音が大事なのかもしれない。
・「なぜ、スキューバを使わないの?」と僕は率直にジャックに訪ねてみた。
「あれはエレガントではない」と彼は言った。
完璧な答えだ。・自然を相手に何かをしようとして、条件がよければ素直に喜び、条件が悪ければそれを克服することを喜ぶ。本当にひどいことになれば黙って耐えるのだろう。人間が相手だと腹も立つしうんざりもするけれど、自然に対してそういうことは一切意味がない。提供してくれるものをそのまま受け入れるしかない。たぶんジャック・マイヨールはその達人なのだ。
・彼によれば、われわれは気という臍帯によって宇宙と結ばれた胎児である。
・クジラはただそこにいるだけでいい。水中で、近くに寄って、見る。数メートルの距離で相手の存在を認める。そこで、もしも、私がそこにいることを認めてくれたら、それで充分。
・クジラの生活には何の苦労もない。海の中で最も大きな生き物だから、敵というほどの敵はいない。・・・ では、クジラはあの大きな脳で何を考えているのか?物質的なことは何一つ考えなくていい。そういう問題があることさえ知らない。とすれば、あとは哲学的な瞑想しかないじゃないか。
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