Book LOG | 羽田圭介の「スクラップ・アンド・ビルド」

 

羽田圭介の「スクラップアンドビルド」

 

第153回芥川賞受賞作、羽田圭介の「スクラップ・アンド・ビルド」を読みました。

 

全てがとてもリアルに染み込んでくる作品でした。
リアルな体験、リアルな表現。

もう少し年をとってたら、この視点はなかなか書けないだろうし、もう少し若くても難しいのでしょう。

描く視点を「どこ」に置くかというか、「どのタイミング」に置くかは、作品のリアリティを左右する大きなポイントなような気がしました。

 

以下、僕の中で「引っかかり」のあったコトバのメモを読んで興味がわいた人は、手に取って読んでくださいね。

 

 

トレーニングとして走るのは、10年ぶりくらいか。それだけのブランックがあっても、中学高校のスキー部時代に叩きこんだ呼吸のリズムは、一瞬でとり戻せた。冬合宿に備え春夏秋と年中土の上で練習・待機中だった当時の健斗たちスキー部員は、校内マラソン大会でも陸上部の長距離選手たちと互角にはりあうほどだった。

 
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しかし祖父にとっては違う。痛みを痛みとして、それ自体としてしかとらえることができない。不断に痛みの信号を受け続けてしまえば、人間的思考が欠如し、裏を読むこともできなくなるのか。だからこそ痛みを誤魔化すための薬を山のように飲み、薬という毒で本質的に身体を蝕むことを厭わない。心身の健康を保つために必要な運動も、疲労という表面的苦しみのみで忌避してしまう。運動で筋肉をつけ血流をよくすることで神経痛の改善をはかったりはしない。その即物的かつ短絡的な判断の仕方が獣のようで、健斗にとっては不気味だった。

 
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席を確保するためなら彼氏と目線を合わせることも拒絶する亜美の丸まった姿勢を見下ろし、健斗は確信した。とにかく肉体的疲労を嫌がり楽をしたがる彼女はこの先、太ったおばさん体型まっしぐらだ。

 
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真冬用の衣類の数々が、来シーズンも気持ちよく使えるように畳まれている。
そしてふと思った。祖父は、次の冬を迎える気満々でいるのか?

 
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目の前にいるのは、三六五日のうち三三〇日以上「死にたい」と切に思い続けている老人なのだ。なにをすれば困難な目的を最短距離でやり遂げられるのか、教え導いてあげなければ。健斗は自分が、子供へと退行した祖父の親にでもなったかのような錯覚に陥った。

 
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たしかに卑屈は一番腹立つ

 
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自分はあのとき、静まりかえった屋内のただならぬ気配に祖父の異変を察していながら、無意識のうちに無視してはいなかったか。健斗は何度も考えていた。

 
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「入るか」
「お願いします、ありがとう、すいません」

 

 

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*企画は身体性。良質な企画は世の中を変える。
*良きインプットが良きアウトプットを作る。

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