萩原浩の「オロロ畑でつかまえて」

萩原浩の「オロロ畑でつかまえて」を読む

わずか300人の過疎化が進む街の村おこしを、倒産寸前のプロダクションが手がけたら?そんなプロットをユーモアたっぷりで描く作品。

小説の章のタイトルは、広告代理店の人間には馴染み深い言葉がならぶユニークな作りだ。プロローグにはじまり、「1.クライアント」、「2.プロダクション」、「3.エージェンシー」・・・「10.ティザー」、「11.リーチ」、「12.フリークエンシー」などなど。ここだけ読むと、一見、広告代理店の新入社員に向けてまとめられた業界用語集のように映る。しかし、ストーリーはちゃんとこれらの用語とリンクしながら展開していく。このストーリーの組み立て方はちょっと新鮮。

ストーリーの本題とは脱線するのだけど、サイドストーリーとして本書の中で架空のコンドームメーカー(高砂ゴム興行)のコンペがあり、プロダクションが商品のコピーのアイディアブレストを行うシーンがある。その中に出てくる一つの没案でこのようなコピーがある=「二人の間の、0.03ミリ」。

このコピーを読んで、2009年にカンヌを受賞したsalami original 0.02の広告「「LOVE DISTANCE」(当時、GT inc.伊藤直樹が担当)を思い出した。「オロロ畑でつかまえて」は2001年の作品なので、この本を後にメーカー側が意識することで、結果カンヌ受賞に繋がる広告作品ができることになったのか、それとも逆で、メーカーがそもそも昔からこの手のプロモーションを意識してきたものを作家が転がしたのか、どちらが先なのかは定かではない。でも何らかの絡みはありそうだ。(いつの時代も小説は未来を作り出すヒントだと思っているからだ)

「LOVE DISTANCE」のカンヌ受賞は、単なる映像美ではなく、制作時に実際恋人達を何日もかけて走らせ、その間もソーシャルを使って拡散した所に大きなクリエイティブチャレンジがあった作品だ。そして、これがあったからこそ、カンヌ受賞に繋がるタグライン=「それでも、愛に距離を」のコピー(とくに「それでも」の部分」)が活きてくる設計となっている訳だ。没案とカンヌ受賞作品の間には、一見似てはいるものの、実は大きな(クリエイティブジャンプの)差があることを思い出した。

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