宮部みゆきの「おそろし 三島屋変調百物語事始」を読む。
429頁の長編。5部構成。
第一部のタイトルであり、ストーリーを繋ぐ一つのモチーフにもなっている「曼珠沙華」に着眼したことが実に興味深い。これで作品の半分が見えたんじゃないだろうか。ご存知「曼珠沙華」とは、別名「彼岸花」。秋の彼岸ごろから赤い花をつけることから、彼岸花と呼ばれている。更にその有毒性からか、異名も多く、死人花(しびとばな)、地獄花(じごくばな)、幽霊花(ゆうれいばな)等と呼ばれる。小説の中ではこれが、現世と死者の世界を繋ぐモチーフとなっている。(村上春樹小説で言うならば「井戸」モチーフと言う感じかな)。もう一つのアイディアは、このプロットを江戸時代にしたところ。これにてストーリーに不思議なリアリティを齎すことが可能となっている。様々な登場人物により語られる多くの物語が家族、兄弟をテーマとしている為、これはこの小説を書き上げる為に必要不可欠なエッセンスだったのだと解釈する。こう言うプロットを作れることこそ作家性なのではないだろうか?
諸説の構成を分析すると以下の通り(ネタバレしない程度にとどめる)
1:77頁
・人に言えない苦しい経験を胸に抱く主人公の「おちか」の登場。
・おちかと曼珠沙華が、最初の語り手を繋ぐ。
・おちかは聞き役を演じることで、語り手を救う。
2:82頁
・聞き手としてのおちかの能力が少し見えてくる。
・二人目の語り手。お屋敷(蔵)に魂を捕われた家族。
・お屋敷に誘われるが。屋敷の話は一度宙ぶらりんとなる。
3:54頁
・立場が逆転、おちかが語り手となる。
・主人公の背景、深み。
・家族、血縁、恋人、死。
4:70頁
・三人めの語り手。おちかの能力は認められている。
・読み手も、3によっておちかの背景を理解しているため腹落ちする
・鏡に閉じ込められる話はラストへの伏線となる。
5:131頁
・兄登場。兄の本来の目的とは異なる流れにシフト。
・2のお屋敷であの世の登場人物が一気に繋がる。
・おちかが魂の解放役となる(聞いて上げること)=才能開花
・曼珠沙華が、ブリッジとなる。
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