長岡弘樹の「傍聞き」を読む。(トモさんセレクション)
短編四編を収録した一冊。一つ一つの短編はサラッと読めるが、それぞれに「ひざポン」のトリックと言うべきか、人情的な人間の行動心理の描写があり、いい意味での「引っかかり」を楽しむことができた。
・「四編に共通するのは、自分を犠牲にしても他人を助ける職業の現場を舞台にして、ある登場人物がとった不可解な行動がミステリーの核となること」(解説より)
・08年の第61回日本推理作家協会短編部門を受賞した短編「傍聞き」がそのまま小説のタイトルとなっている。「傍聞き」という用語にについては、短編の中でも登場する。以下がその一節。
「いまのはね、本当は葉月じゃなくて」啓子はさらに声を低くし、和室の方を見やってから続けた。「お父さんに聞かせたの」
「だったら仏壇の前で言えばいいじゃない」
つられたのか、葉月の声もいくぶん囁くようになっている。
「それじゃあ駄目だよ。葉月、あんた、漏れ聞き効果って知らないの?」
「何それ」
「知ってるわけないか。だったら『傍え聞き』なんて言葉も初耳よね。
ー いい?例えば、何か一つ作り話があるとするじゃない」
「うん」
「それを相手から直接伝えられたら、本当かな、って疑っちゃうでしょ」
「そりゃね」
「だけど、同じ話を相手が他の誰かに喋っていて、本当はそのやりとりをそばで漏れ聞いたっていう場合だったらどう?ころっと信じちゃったりしない?」
「・・・まあね」
「それが漏れ聞き効果なの。どうしても信じさせたい情報は、別の人に喋って、それを聞かせるのがコツ。
ー だからきっといまごろ、父さんは天国で喜んでいるはずだよ。そうか、葉月は料理が上手くなったのか、ってね」
「ふうん。そうやって耳に入れることを、傍聞きっていうの?」
「そう。ひとつ勉強になったでしょ」
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